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東京地方裁判所 平成6年(ワ)4823号 判決

原告

鎌田文隆

外五名

右原告ら訴訟代理人弁護士

宮里邦雄

中野麻美

被告

学校法人高宮学園

右代表者理事

高宮行男

右訴訟代理人弁護士

坂本政三

主文

一  被告は、原告鎌田文隆に対し、金一万三六〇〇円及びこれに対する平成六年二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告鈴木博に対し、金三万七二三八円及び内金一万三六〇〇円に対する平成六年二月二五日から、内金一万九〇〇〇円に対する同年五月二五日から、内金四六三八円に対する同年六月二八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告松藤孝明に対し、金三万七〇一五円及び内金一万三六〇〇円に対する平成六年二月二五日から、内金一万九〇〇〇円に対する同年五月二五日から、内金四四一五円に対する同年六月二八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告木幡一隆に対し、金三万六六五〇円及び内金一万三六〇〇円に対する平成六年二月二五日から、内金一万九〇〇〇円に対する同年五月二五日から、内金四〇五〇円に対する同年六月二八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告茂木勝に対し、金三万六九三三円及び内金一万三六〇〇円に対する平成六年二月二五日から、内金一万九〇〇〇円に対する同年五月二五日から、内金四三三三円に対する同年六月二八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  被告は、原告高安正明に対し、金三万〇九四三円及び内金七八〇〇円に対する平成六年二月二五日から、内金一万九〇〇〇円に対する同年五月二五日から、内金四一四三円に対する同年六月二八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

七  原告らのその余の請求を棄却する。

八  訴訟費用は、被告の負担とする。

九  この判決は、一ないし六項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告らの請求

遅延損害金の割合を「年六分」とするほか、主文一ないし六項と同旨

第二  事案の概要

一  争いのない事実等(当事者間に争いがないか、各掲記の証拠によって認められる。)

1  被告は、肩書地に本部を置き、予備校である代々木ゼミナールを全国主要都市に設置することを目的とする学校法人であり、原告らはいずれも被告に雇用され、原告鎌田文隆(以下、各原告を姓のみで表示する。)は人事部付で株式会社日本入試センター業務課に出向(ただし、同原告は、平成六年五月二日付けで解雇された。)、原告茂木は代々木ゼミナール理科編集部、その余の原告らは代々木ゼミナール社会編集部に、それぞれ所属している。

また、原告らは、いずれも訴外労働組合東京ユニオン代々木ゼミナールグループ支部(以下、組合という。)の役員・組合員である。

2  原告らは、平成五年一二月一八日午前一一時三〇分頃、各自の所属長に対し、理由を「私事都合」とする同日午後の半日年次有給休暇(以下、本件半日年休という。)の請求をしたところ、被告は、時季変更権を行使しなかった。

3  原告鎌田は、同日午後、自宅に待機し、その余の原告らは、組合の津田沼分会(当時の名称は、代々木ゼミナールグループ労働組合津田沼支部)に赴き、組合活動を行った。

4  被告は、平成六年一月二五日、原告らに対し、本件半日年休取得について、「本来の有給休暇の目的趣旨に反する休暇のため、学園としては承認できない。したがって、当日は、『半日欠勤』として処置することになった。」旨、文書で通知した(以下、本件半日年休の取消という。)。

5  被告の給与規程一二条は、「一か月皆勤(無遅刻・無早退・無欠勤)した者に対し、皆勤手当(以下、月間皆勤手当という。)として、採用後三年以上の者について一万三六〇〇円、採用後三年未満の者について七八〇〇円を支給する。」旨定めている。

平成六年二月分(平成五年一二月一六日から同六年一月一五日まで)の月間皆勤手当として、原告高安を除く原告らに対し金一万三六〇〇円、原告高安に対し金七八〇〇円が支給されるはずであったが、被告は、平成六年二月分の月間皆勤手当の支給日である平成六年二月二四日、本件半日年休の取消を理由として、原告らに対し、これを支給しなかった。

6  被告の就業規則六二条、六三条は、「一年間皆勤した者(無遅刻・無早退・無欠勤で、就業規則四五条七号・八号の特別休暇、第一二章の育児休職を受けなかった者)に対し審査の上、表彰金として金一万九〇〇〇円(以下、年間皆勤手当という。)を授与する。」旨定めている(乙一、以下本件表彰規定という。)。

被告は、平成六年分(平成五年三月一六日から同六年三月一五日まで)の年間皆勤手当の支給日である平成六年五月二四日、原告らに対し、これを支給しなかった。

7  被告は、平成六年六月、同年度の夏期賞与を次の計算基準で支給する旨定めた(甲一一)。

A 平成四年五月一五日以前に本採用になった職員

(基本給×3.3+職階手当)―(基本給÷20)×欠勤日数

B 平成四年五月一六日から同五年三月一五日の間に本採用になった職員

(基本給×3.0+職階手当)―(基本給÷20)×欠勤日数

C 平成五年三月一六日から同年一一月一五日の間に本採用になった職員

(基本給×2.8+職階手当)―(基本給÷20)×欠勤日数

D 平成五年一一月一六日から同六年五月一五日の間に本採用になった職員

(基本給×2.8+職階手当)×本採用後の出勤すべき日数÷120日―(基本給÷20)×欠勤日数

ただし、欠勤日数の算定期間は、平成五年一一月一六日から同六年五月一五日とする。

被告は、平成六年六月二七日の平成六年度の夏期賞与の支給日に、本件半日年休の取消を理由として、右計算基準に基づき、原告鈴木については金四六三八円、同松藤については金四四一五円、同木幡については金四〇五〇円、同茂木については四三三三円、同高安については四一四三円を減額(以下、本件夏期賞与の減額という。)して支給した。

8  本件は、原告鎌田において、平成六年二月分の月間皆勤手当の、その余の原告らにおいて、右月間皆勤手当、平成六年分の年間皆勤手当、及び同年度夏期賞与の減額分の、各支払を求めたものである。

二  争点

1  原告らについて半日単位の年休が有効に成立するか。

2  原告ら(原告鎌田を除く。)に年間皆勤手当の請求権があるか。

三  争点に関する双方の主張

1  争点1について

(被告の主張)

(一) 年次有給休暇の付与は、労基法三九条一項において一労働日を単位とするとされており、使用者に、これを半日単位に分割して付与する義務はない。

就業規則に半日年休付与を明記し、労働日単位の通常の年休と全く同一に取扱うことが規定されている場合は、半日年休についても、労働者が時季指定の請求をすれば、通常の年休と同一の取扱を受けることになろうが、被告においては、就業規則上も半日年休を認めておらず、昭和四〇年頃、職員の便宜を配慮して半日年休の付与を恩恵的措置として認めるようになったものであって、付与を認めるか否かについて労基法や就業規則の制約を受けるものではなく、被告が裁量権を保有している。

したがって、原告らに半日年休の請求権はなく、被告には半日年休を付与する義務はない。

(二) 労働日単位の通常の年休にあっても、使用者は、労基法三九条四項但書所定の事由が存するときは時季変更権を行使することができ、したがって使用者に時季変更の時間的余裕を与えないような時季指定権の行使は、制度の目的に反し、または逸脱するものとして、権利濫用の法理により効力を生じない。

時季指定の時期について、被告の就業規則四二条では、「職員は前条の規定によって年次有給休暇を受けるときは、あらかじめその時季を書面で所属長に届出なければならない。ただし、業務の都合上やむを得ない場合には、年次有給休暇の時季を変更させることがある。」と規定しているが、右規定にいう「あらかじめ」とは、被告では「前日の労働日の終業時まで」として運用している。右運用は時季変更権の時間的余裕の観点からみて最小限のものであり、合理的で有効なものである。

年休の取得日当日における時季指定は、時季指定権の濫用、または就業規則等による時季指定時期の定めに違反するものとして、その効力を否定され、また就労しなかった日を年休として事後に時季指定すること、すなわち年休への振替も、同様に効力を生じない。使用者は、これに同意する義務はなく、同意した場合にのみ、年休への振替が認められる(就業規則四九条一項)。

右の理は、仮に被告に半日年休を付与する義務があることを前提とした場合にも当てはまる。半日年休の時季指定は、少なくとも前日の労働日の終了時までになされるべきものであり、時季変更権行使の時間的余裕を与えない時季指定は権利濫用として効力を生じない。これは、午後半日の年休の場合も同様であり、当日の午前中に午後半日の年休の届出があっても、それは適法な時季指定といえないから、突発的なやむを得ない事由がなければ、これを許可しない。

本件半日年休は、その目的が違法な組合活動に関与することにあったことが後日判明したので、年休の趣旨・目的に照らし、既にこれを付与すべき理由はない。

しかも右年休届出は、当日、午前の勤務が終了する間際になされたもので、事前届出の手続に反するものであり、これを付与するためにはやむを得ない事由が必要であるが、そのような事由がないことが判明したので、後日、本件半日年休を取り消したのである。

(原告らの主張)

(一) 労基法上の年休について半日単位の取得が許されるか否かについて、かつての行政解釈は、「法三九条に規定する年次有給休暇は、一労働日を単位とするものであるからそれ以下に分割して与えることはできない。」との立場をとっていた(昭二四・七・七基収第一四二八号)が、昭和六三年の労基法改正にあたって、右行政解釈は見直され、「法三九条に規定する年次有給休暇は、一労働日を単位とするものであるから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない。」(昭六三・三・一四基発第一五〇号)と変更した。すなわち、右新解釈例規は、半日単位で年休付与しても労基法三九条に違反しないことを明らかにするものであり、半日単位の年休付与は労基法において許容されることを意味する。

被告における半日年休は、昭和四〇年頃から認められていたものであるが、その取得手続は、一日単位の年休取得手続と全く同じであり、半日年休を取得すれば、年休の残日数が0.5減ずることとなり、被告においては年休付与日数は、労基法の定める法定日数どおりであるから、半日年休の取得は法定年休の取得となる。しかも、半日年休の取得要件や取得理由について特別の定めはなく、実際上の運用においても一日単位の有給休暇との違いは全くない。

したがって、本件半日年休は、一日単位の有給休暇を分割して半日単位で取得するというだけであり、労基法上の年休としての性格を有するものと解すべきものである。

仮に、半日単位の有給休暇を形式上は法定外のものであるとしても、その要件や効果について法定年休と別異の定めをおいている場合はともかく、そうでない限りは、その要件・効果は法定年休と同様のものと考えるべきである。

(二) 原告らは、午前中の勤務時間の終了間際に同日午後の半日年休の付与請求をしたが、右の方法での午後の半日単位の年休取得は、日常的に行われていたものであって、直前の付与請求だからといって問題にされたことはなかった。直前の付与請求であるため、年休を付与すると事業の正常な運営を妨げるというのならば、時季変更権を行使すれば足りるのであって、時季変更権を行使しないでおいて、時季指定権の濫用などと主張するのは的外れである。

被告による本件半日年休の取消は、本件年休の取得目的・理由、さらには取得後の利用方法を問題として不承認とするものにほかならないというべきであるところ、「年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由である」(最高裁昭四八・三・二第二小法廷判決民集二七巻二号一九一頁、昭四八・三・六基発第一一〇号)ことからすれば、右取消は、明らかに違法である。

2  争点2について

(被告の主張)

年間皆勤手当は、給与規定に定められたものではなく、就業規則中の表彰規定に基づいて支給されるものである。したがって同手当は賃金ではなく、しかも「審査の上」支給されるのであって、年間皆勤者に当然に贈呈されるものではない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件半日年休の成否)について

1  労基法三九条は、使用者は、同条所定の取得要件を充たした労働者に対し、一定数の労働日の有給休暇を与えなければならない旨規定しているが、行政解釈は、かつて「法三九条に規定する年次有給休暇は、一労働日を単位とするものであるから、それ以下に分割して与えることはできない。」(昭二四・七・七基収一四二八号)としていた。その後、昭和六三年三月一四日付け通達による労基法解釈例規の全面的見直しに際し、「法三九条に規定する年次有給休暇は、一労働日を単位とするものであるから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない。」(昭六三・三・一四基発一五〇号)と右解釈を緩和した。

このように、もともと労基法上の年次有給休暇は、最低分割単位を一労働日としており、半日に分割してこれを与えることを予定していないものと解されるが、有給休暇制度の目的は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図ることにあり、半日年休は、右目的を達成するのに、労使双方にとって便宜かつ合目的的であることから、同法は、同条の規定文言にかかわらず、使用者が進んで半日年休を付与する取扱いをすることをなんら妨げるものではないと解するのが相当である。

証拠(甲一、二、証人月山亟、原告鈴木博)によれば、被告の就業規則四一条(有給休暇の日数)は、「年次有給休暇は毎年職員に対し三月一六日より翌年三月一五日までを一年とする期間を対象に職員の勤続年数に応じ、一年間の出勤日の八〇パーセント以上出勤した者に対し、一〇日ないし二〇日の年次有給休暇を与える。」旨、また同規則四二条(年次有給休暇の届出)は、「職員は前条の規定によって年次有給休暇を受けるときは、あらかじめその時季を書面で所属長に届け出なければならない。ただし、業務の都合上やむを得ない場合には、年次有給休暇の時季を変更させることがある。」旨規定しており、半日年休を認める旨の明文の規定を置いていないが、被告では、昭和四〇年頃から職員にとって便宜であるとの理由から半日年休を認めてきており、半日年休の取得要件・手続につき、右就業規則の規定に基づき、「年次有給休暇個人票」に請求日、休暇日、休暇残日数、請求理由を記入して提出するものとし、請求理由は、「私事都合」等の抽象的なもので足りるものとし、一日単位の年休と異なった取扱いはしておらず、また半日年休を取得した場合は、右就業規則所定の年休日数(前記のとおり、法定年休の日数と同一である。)の残日数が0.5減ずるものとする取扱いをしてきたことが認められる。

そうすると、被告における半日年休制度は、既に確立した労働慣行となっていると認められ、同制度は、いわゆる法定外年休であるが、右就業規則の規定や取扱い実態からすると、原告ら従業員と被告との労働契約において、その要件や効果は、法定年休と同様のものとする旨約定されたものと解するのが相当である。

2 そうすると原告らは、平成五年一二月一八日午前一一時三〇分頃、午前中の勤務終了間際に、各所属長に対し、同日午後の半日年休の請求をしたものであるが、各所属長らは、同日午後までに時季変更権を行使せず、その頃本件半日年休は有効に成立したものと認めるのが相当であり、後日、その取得目的や利用結果を理由としてこれを取り消すことはできないと解すべきである。

被告は、「年休の取得日当日における時季指定は、時季指定権の濫用、または就業規則等による時季指定時期の定めに違反するものとしてその効力を否定され、また就労しなかった日を年休として事後に時季指定すること、すなわち年休への振替も、同様に時季指定の効力を生じない。」と主張するが、証拠(甲二、五、一三、証人月山亟、原告鈴木博)によれば、被告において、当日午後の半日年休の請求を午前中にすることは、これまでも往々にしてあったが、年次有給休暇個人票に「私事都合」等の抽象的な請求理由を記入して届け出ることにより、右半日年休を付与する実態にあったものと認められる。被告は、右請求に際し、事後の年休請求が認められる場合の要件である「病気その他やむを得ない事由により事前に(年次有給休暇個人票を)提出できなかった場合で、電話その他の方法によりあらかじめ連絡のあったとき」、あるいは欠勤の年休への振替の要件である「所属長の許可」(就業規則四九条一項)等の厳格な要件を要求してはいなかったし、また濫用的な時季指定に対しては、直ちに時季変更権を行使することにより、これを抑止することも可能であったにもかかわらず、前記のように右行使をしていない。

したがって、本件半日年休の請求が就業規則四二条所定の要件・手続に反したものとは認められないし、また使用者に時季変更の時間的余裕を与えない濫用的なものであったということもできない。

3  そうすると、本件半日年休は有効に成立しており、被告のなした右取消(欠勤扱い)は違法・無効というべきであるから、被告は、原告らに対し、平成六年二月分の月間皆勤手当、及び平成六年度夏期賞与の減額分を支払う義務がある。

二  争点2(年間皆勤手当請求権の有無)について

1  年間皆勤手当は、本件表彰規定(就業規則六二条、六三条)により、「一年間皆勤した者に対し、審査の上、授与される。」ものとされており、規定上は、一年間皆勤した者が当然にその請求権を有するものではないとされている。

2  しかしながら、証拠(甲八の二、九の二、証人月山亟、原告鈴木博)によれば、年間皆勤手当は、かつては、該当者(年間皆勤者)に対し、本件表彰規定(六三条)どおりに賞状とともに金一封として授与されていたが、やがて賞状とは別に給与と一緒に振込支給されるようになり、約一五年前からは、賞状も交付されなくなったこと、年間皆勤手当は、定額(一万九〇〇〇円)とされ、該当者に対しては、特段の審査手続を経ることなく、例外なく支給されてきているものと認められ、右支給実態によれば、年間皆勤手当は、今日では、その支給の是非について被告の裁量に委ねられる部分があったとは認めがたく、したがって労働の対価たる賃金としての性格を有していたものと解すべきであり、該当者(年間皆勤者)に対し、その支給を拒否することはできないというべきである。

3  そうすると被告は、原告らに対し、年間皆勤手当を支払う義務がある。

第四  結論

以上によれは、原告らの請求は、被告が営利事業を行っていることの立証がないので、遅延損害金の割合を民法所定の年五分とすべき点を除き、理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官吉田肇)

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